小説の感想・鎌倉不動産のあやかし物件
一見どこかで見たようなモチーフだな、と思わせるタイトルの小説を見つけた。
あの作品に似ているかもしれないし似ていないかもしれないけれど、どちらにしろこの手には弱い私である。やはり読んでしまった。
ちょっとネタバレありです。
主人公は女子大生でちょっと屈折した過去があるがそれ以外はごく普通に暮らしていた。
ところが母親の付き合いで仕方なく訪ねたはずの先で本来の目的を知り驚愕したばかりか、とんでもないことになり、以来生活が大きく変わってしまった。
人生にほどよく疲れたおばさんから見ると、シンデレラストーリーというのは普通はないものなのよ、というのが出だしを読んだしょっぱなの感想だった。
いくら訳ありと言っても、親があえて推薦する相手というのは普通は無難なところが多いものである。本当に好きな相手なら反対はしない、というのは別としても。もっとも、親が普通に推薦したいような相手ではとても無理そう、という事情なら話は別なので、この場合藁にもすがる思いだったかもしれない。
主人公女子もその辺はよくわかっているいわゆる理性派で、最初はまさかね、という感じの反応をするのだが、なにぶんにも大変なことが起こってしまったので仕方なく提案を受け入れることにする。
そして始まった新生活で、主人公女子と超イケメンお坊ちゃん本人たちは付かず離れず、しかし周りの方はしっかり容認しているという普通と逆のパターンで物件問題に取り組むようになる。
題名はあやかしと書いてあるけれど実際はあやかしではなくて幽霊で、あやかしというよりあやしい物件である。
でもそれぞれがちょっとした謎解きにもなっていてホラーというほどではない。でも怖いのが苦手な人にはお勧めはできない。
一軒ずつが一件の事件にはなっているが、主人公女子の過去に共鳴するものがあったり、イケメン君の過去と実際に繋がる事件もあったりして、最後にはかなり大事になってしまう。
その事件に不本意ながら深く関わっているイケメン君の初恋の女性はとても気の毒であった。実際にもこういう境遇になる人はいるんだよな、と思うとかなり切ない話でもある。
当のイケメン君はというと、過去の気持ちは完全には忘れていないようだけれど、かの女性に似て、しかも彼の過去も体質も理解した上で一緒にいてくれるという(というか事実上一緒にいないとダメだというものすごい事情もあるが)主人公女子という新しい女性が現れたので、そっちにすっかり心を奪われてしまったようだ。
いくつかの事件を一緒に解決した後で彼が主人公女子にぽつんともらした一言、「…試してみる?」というところがおばさんにはとてもキュンときた。
できれば続編が読みたいな、と思う。
冒頭に書いた、どこかで見たようなモチーフ、というのは確かに当たっていたが、こちらの方が静的でしっとりと読み進められると思う。粒あんとこしあんみたいにどちらもそれなりのおいしさがある、という感じだ。