きぬかつぎ

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小説の感想・准教授・高槻彰良の推察 生者は語り 死者は踊る

マンガの第1巻を読み終えてから寝ればいいのにどうしても止まらず小説の最新刊も読んでしまった。

 

ちょっとネタバレありです。

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 前回の予告通り、メガネくん尚哉の過去に起きたことを知るために山の中の村に行くことになった。

でもその前に百物語の話が。

百物語というとどうしても楳図かずおのうばわれた心臓を思い出してしまう。この話ももしかしてその線?とドキドキしながら読んだ。

幸いその線ではなかった。

学生の中で殊勝にも百物語をやりたいと言い出した者がいて、先生も研究室の学生や尚哉もさそって参加する。

授業の一環ではないものの、流れ的に先生が百物語という「イベント」の成り立ちについて簡単に説明してくれ、知らなかった私にはとても面白かった。他の怪異についての解説もそうだけど、まるで自分も講義に出ているみたいで面白いのがこの作品のもう一つの魅力である。

そして今風に多少アレンジしつつも百物語は順調に進み、やがて百話が終わった時、一つの現象が起こった。

参加者の一人に本当に不可解な出来事が起きてしまうのである。

でもそれはなんか出来過ぎな感じだったのだ。

そして、そもそもなぜこれが企画されたのか、そして誰が何をしたのかが分かってしまう。いかにも今の時代に描かれた話らしいオチだった。いわゆるネタにされてしまった人が可哀想なオチだ。

とはいうものの、そのオチがわかった後でも実際に起きた不可解な物理現象だけは謎のままだった。背景が背景だけにこれだけはこのままにしておこう、と自分から身を引いた先生だったが、偶然にもそれがどうして起こったかが分かってこの話は終わる。

オチばかりでなく物理現象も現実的なものだったのだ。鍵となるのは私が一番愛する動物である。結果的に私にはほっこりする話となった。

そしてその次がいよいよ尚哉の過去への旅の話になる。

以前別の事件で偶然知り合った尚哉と同じ能力を持つ人が数年前に同じ土地を訪れた話をしてくれ、その話を聞く限りではかなり嫌な予感しかしないものの、やはり知りたいと思う気持ちが抑えられずに尚哉は旅を決行した。

そして案の定、現地に着いて尚哉たちは不気味な経験をする。それは聞いた話と全く同じパターンだった。

でもだからって先生が簡単に引くわけがなく、先生に言われるがままに尚哉とケンちゃんはさらに足を進める。

そして辿り着いたのは意外にも隣接する村だった。隣接といっても尚哉のいた村とは山を挟んで反対側だったのだが。

そこでの様子をもとに、先生はこの地域がどういう仕組みになっているのかをなんとなく理解し始める。

もっとも、だからといってそう簡単に行くわけがなく、うまく立ち回ろうとしたが失敗して尚哉と先生はとんでもない状況に陥るのだった。

百物語の話が今の時代特有の背景によるオチだったのとは対照的に、これは本物だった。

それを悟った先生は大人の対応をしようとし、尚哉は苦しむ。尚哉が過去の話をしなければ先生がこの土地のことを知ることにはならなかった。だから先生が自分を誘ったのは実は自分が先生を誘ったのと同じことだ、と。

それもそうだし、でもいくら天然とはいえ大の大人が決めたことなんだから責任を取るというのも同じことだよなあ、とも思った。

どうすんだ?と思っていたらそこに思いもよらぬ人が登場。

実は少し前にひょっこりと登場してはいたのだが、まさかここで出てくるとは思わなかった。

その人は前にも出てきた人で、いくつもの「本物の怪異じゃない」話と違って本物だった人だ。そうと知って以来先生が尚哉に内緒でこっそり探し続けていたという。

なんでも、先生と尚哉のことを気に入っているので出てきたんだとか。二人が本物だからか。

そしてその人はその人ならではの方法で二人を救ったのだった。

なんでここで?というのが私個人的にはちょっと疑問だったけれど、これは先生と尚哉の物語なのだから二人の窮地はなんとかして救われなければならない。だからまあ深く考えないことにしよう、と思った。

それより驚いたのはその人の正体だ。そういう類いだろうとは思ったけどあれか!となった。

あまりネタバレしたくないので間接的に書くと、これは私の好きなゲーム「水の旋律」の陽菜である。陽菜みたいな後付けじゃなくて本物の方らしい。

でもその人は今回は救出後去っていき、先生と尚哉は無事にケンちゃんのところに戻ってこられたのであった。

それで話が一件落着したな、と思ったが…

そうはならなかった。

この作品は尚哉の推察ではなくて高槻彰良の推察だからである。

無事終わって帰るぞ、というときになって、今度は先生の方に異変が起きた。

先生の過去に何がどうあったのかは今だに謎で、尚哉みたいにどこで起きたというのもわからず、似たような体験や能力を持つ人もいない。

だから防ぎようがなかったのは仕方ないのだが、突然それは起きて、ありゃりゃと思っているうちにこの巻はおしまいになった。

そういえばマンガの方も一つの事件の途中で終わっていたな、と思いつつ読了。

改めて、尚哉の闇も深いけどいわば「これくらいで済んだ」レベルであり、真打の先生の方はもっと深く謎に包まれているんだな、と思った。