きぬかつぎ

マンガ、小説、アニメ、ゲーム、音楽、酒、食、旅、仮想通貨取引や猫と日常生活のこと。

小説の感想・丸の内で就職したら、幽霊物件担当でした。

新築にしても中古にしても、旧市街でも新興住宅地でも、地球上にあるからには長い歴史の中で今まで何があったかなんて誰にもわからないものだ。

昔伊勢方面に友達と旅行に行って旅館に泊まり、夜中にふと自分だけ目が覚めてなぜか落ち武者のことを考えてしまい、怖くてトイレに行けなかったことがあった。

そんなことを言ったら京都なんかそこいらじゅうになんかいてもおかしくないだろうし、鎌倉だって夜歩きできない道理なのだが、霊感はないけど想像力だけたくましいので一旦スイッチが入ってしまうとダメなのである。

でも、逆に考えると想像力のスイッチさえ入らなければ全然平気なわけで、霊感ゼロの体質に生んでくれた親に感謝せねばなのである。

この作品の主人公新米オーエル嬢は、今まで視えないと思っていたのが実はかなりの能力者で、芸は身を助けるというか体質は身を助けるというか、視えるが為に超一流企業に入れてしまったらしい。しかもそこそこイケメン上司と超イケメン先輩とサシで働けるという環境にまで恵まれたという。作り話でも美味しすぎな設定で。

怖い思いをするだけのお仕事?というのは羨ましくないが、環境的には誠に羨ましい。

というわけでけしからんと言いつつ読んだのであった。

ちょっとネタバレありです。

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お話は初っ端から笑えるようで笑えないシチュエーションから始まる。ものすごく昔就活の最初に某有名企業の集団面接に行った時のことを思い出して同情してしまったおばさんであった。ああいう時きちんと振る舞える人は本当に羨ましい。私なんか自分が面接に立ち会わされるのも緊張するくらいだ。緊張のあまりくだらない質問をしてしまわないようにノートばかり見たりする。

この主人公はそこでしかし運命の質問を受けたのであった。この本の中にははっきりとは出てこないが、きっと見なくて良いところを見たりしていたのに違いない。質問が出た時は私も一瞬はあ?と思ったがすぐ本のタイトルから察してああ来たあ、と思ったのであった。

そこからはもう暗闇に一直線、という感じである。

実は現実にも、こういう物件てどうしてるんだろ?と思ったりしていたので、こうやって一つ一つ解決してくれていたらいいのになあ、と思いながら読んでいた。特に最初の2件ほどはそうだった。

それから本の表紙に出てくる犬の出てくるお話になると昔実家に犬がいた私は例によってまたボロ泣きである。

幸いものすごく悲しいことにならずにそのまま現世に居つくというかどっちかというと主人公に憑くような感じで残ったからまだいいのだけど。

後半の方のお話では、仕事のことももちろん出てくるがだんだん恋の匂いがしてきてそれも楽しめた。

まあ若いシングル男女がずっと一緒に仕事してたら普通にいろいろありがちだろう。上司が本当にシングルかどうかはまだ判明しないけど、どうやらまんざらでもないらしいという雰囲気がなかなかよろしい。こういう美味しすぎる設定はけしからんのだけど、読み始めればそれはそれでなかなか味わえるものである。

細かく気難しく分析するならば、最近沢山ある似たようなお話のバリエーションのひとつで、何度も書くけどイケメンばかりにいきなり囲まれるとか、しかも上司の家が実は、とか、ちょっと気張りすぎな感がなくもない。

でも、味付けの相性さえ合えばいくらでもご飯が食べられてしまう、という原理で、私には美味しいから許せるというタイプの作品だと思う。

作品紹介のところにわざわざ書いてあったので、本当に面白いのかなと一瞬心配でもあったけれど。

ひとつだけ不満だったのは、一冊の終わりが案外唐突な感があったこと。無難な締め方ではあったけれど、あれ?もう終わり?と思ってしまった。

それで気づいたら今月のキャパを超えてシリーズの既刊作品を全部買ってしまっていたのだった。