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小説の感想・心霊探偵八雲 第12巻

思えば帰省した時にアニメを見たのが最初だった。あれからもう16年とは。

ちょっとネタバレありです。

前巻では、晴香が瀕死の状態に陥ってしまったところで終わった。

それも彼女が八雲と関わったからであり、悪い方に頭がものすごく切れる七瀬の策略の前には助けもほぼ遅すぎたといえた。

病院に駆けつけた晴香の父親に一言言われる。お約束の一言だが、これでなくて何を言えというのか、ということで彼はその場を立ち去った。

本巻の始まりは実はこのシーンではない。

長い長い闘いの決着ということで、そもそもの始まりの話からになる。

七瀬がどんな過去を経てあのようなラスボス的存在になったのか、どんな偶然からここまで来られたのかが、その当時の本人の目から見た世界と共に語られる。語られるというにはあまりにも酷い世界だったけれど。

いきなり出だしから重苦くて、来たかー、と私は唸ってしまった。こういうのは結構苦手なのだけど、七瀬という人物を知るには不可欠なシーンであろうこともわかった。最初からぶっ飛んでる人というのはごく稀であり、実際には必ず何か理由があるものだ、というところである。単に八雲の父親のことが好きだったわけじゃなかった。うーん、なるほどと思った。

そして今現在に話は戻り、今まで出てきた、八雲と晴香を取り巻くさまざまな登場人物たちが出てきて、2人を何とか救おうと必死になる。

その間晴香は瀕死のままだったが、どうやら何とか落ち着きそうな気配を見せていた。

でもそこで順調に運ばせないのが七瀬である。

ただでさえ切れかかっていた関係者一同をさらに混乱させ、何より八雲がズタボロにならざるを得ないようなことが次々と起きる。読んでいてよくもまあここまで引きずってくれるよなと感心したくらいだ。後藤のおっさんにまで危機が訪れかけた時はこっちまでずっこけそうになったくらいだ。

でも最もキツイと思えたのは、起こった一連の事件や明らかになっていく過去や人々の関係ではなくて、時々現れる晴香の朧げな姿だったと思う。何しろ心霊探偵シリーズだけに、朧げな姿といえばもう意味することが一つしかない。みんなもそれを嫌というほどわかっているがために尚更焦ったり落ち込んだりしていた。

私個人的には、これで最終巻だということだし、ここで八雲の父親が大きく活躍するんじゃないか?と思っていた。だから七瀬が出てくるとそこに彼も出てきて改心させるとか、そういうことを期待してたのだけど。

そんなことは起こらなかった。

父親は何度も出てきたが、七瀬にではなく八雲に語りかけるばかり。八雲も今更!と怒っていたけれど私もそう思った。確かにもう七瀬を止められるのは八雲だけだとしても、自分がやったことは自分で始末せいよ、と。

だから八雲もどんどん闇落ちしていき、私は途中からバッドエンドの方を想像してしまったくらいだ。どのくらい闇な感じかというと、私個人の感覚ではカオへの1周目のエンドを終えた時くらいなダークさだったと思う。

がしかしこれはカオへではないので、もう諦めてこっち側でダメでもあっち側で幸せになれるかもね、とかどうせ見える人だから憑依して幸せになれるかも、とか、闇なら闇でもいいけどちょっとは救いがあるかな、なんて思っていた。

そうしたら、私のささやかな予想はいい意味で外れ、最後の最後にはまあこうなるしかなかっただろうね、という対決の終わり方が来て、そしてその後には何だよもう!と八雲が思わず不機嫌になってしまうようなことになった。

いやまあそうなるはずだと思っていたけどね!でも途中であれ?やっぱ違うん?と思わせておいて、最後の最後にはやっぱこうですよ〜と来た。全くドキドキさせられっぱなしだった。

あんまり細かく書くと読む楽しみが減るだろうけど、先がわからないストレスを軽減させるために書けば、怒れるってことは怒る相手がいてこそだ、ということ。相手がいなかったら不機嫌な顔だって見せられないんである。

これでこのシリーズは終わりである。でもこういう題材で登場人物なので、「私も」続シリーズができればいいなあなどと思う。

それと最後に、この巻の冒頭に超有名なあの一節が引用されていた。マンガでも小説でも、日本の作家さんには本当に好まれているアレである(かくいう私も好きなんだけど)。いささか使われすぎな感もある一節だけど、このシリーズの最終巻にはふさわしいな、と思った。

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