軽い絶望感

10年以上も前に行ったクレタ島の写真である。

車で山道を走っていたらそばの崖の上から見ている動物がいた。

あんな幅の狭いところをよく歩けるなあと思って感心していたが、今になってみるとうちの猫でもせまいところをひょいひょいと歩いている。よろよろとおぼつかない足取りで歩くのは人間くらいかもしれない。

クレタ島はシーズン前に訪れたせいもあるだろうけど、有名な割には静かで、思ったよりずっと広かった。車でどこまで走っても荒々しい地形が続き、遺跡があり、そして野生の動物がいたりする。

私は正直言うと大陸の旅の方が好きだ。どこまで行っても地面が続くのが面白いのだ。子供の頃日本でどこの国に行くのにも仰々しい手続きを経て飛行機や船で出かけなければならないのが面倒だと思ってきた。だから大陸で車や徒歩で国境を越えてしまえるのが今でもちょっとゾクゾクして嬉しい。

でも、クレタ島はそんな私でもまた行きたいと思ういい雰囲気のところだった。

今でもドイツからギリシャに行くことは可能なのだが、ここ数日欧州各地で休暇を過ごして帰ってきた人たちが新規感染者となっているらしいケースが急増している。ギリシャについては聞いていないものの、空港は各地からの人たちで混雑しているわけだし、どこでどういう接触があるのかわからない。新しい旅行の様式が確立するまでは気軽に行くのは難しいのかもしれない。

今後のことについては毎週のように新しい予想が出てきている気がするが、ごく最近の話ではワクチンができても来年、一般人が接種できるのは再来年、などという説もあるらしい。

正直、いくら私でもこれは長いなあと思ってしまった。

これが現実なのだろうと思う。本来はもっと時間をかけて完成させるのだとも聞いている。頭ではそうとわかっていても、感情的に受け入れることが難しい。

軽い絶望感、というやつである。

幸い、今の時代はネットのおかげで孤独感も感じないし娯楽も豊富だ。世界各地の美しい風景だって大画面で見られる。

でも、旅行というやつはそういうものとはまた別なのだ。その土地の空気を感じたり、匂いを嗅いだり。旅行鞄を抱えて歩くこともまた、非日常的で楽しい。

とはいうものの、嘆いてばかりいても仕方がないので、せめて今は休暇用の予算を積み上げて次の旅行の夢だけ見ておくことにする。

実際に行かれるようになるまでこんなことを何回書くのだろう、とも思ったり。