きぬかつぎ

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ラノベの感想・ワーズワースの秘薬 恋を誘う月夜の花園 愛を捧げる光の庭園

ついつい妖ものとか魔術とか心霊関係を選んでしまうので、たまにはそういうのでなさそうなのにしよう、と思って読んでみたのだが。

ちょっとネタバレありです。

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(探せば出てくるものでちょっとした庭園と本物のお城の写真があった)

出だしはまるでシンデレラみたいなお話だった。

ベタすぎる底意地の悪い、見栄っ張りで悪どい一家に何故か預けられてしまったかわいそうな少女が、ある晩超イケメンの青年にあれよあれよと引き取られてしまう。

最初は不幸のどん底から救ってくれただけのように見えたが、実はそうではないということが間も無く判明する。

少女はあまりにもいじめられていたせいでまともに喋ることも、素直に感情を表すこともできなくなっていたが、青年の家で甲斐甲斐しく世話を焼かれているうちにだんだん氷解してきた。しかしそれを十分堪能する暇もなく、自分が単に親切な人から救われたわけではなく、代償と引き換えだったと知ってまた落ち込みかけてしまうのだった。

一筋縄でいったら面白くないのでこれくらい最初から捻ってあるのは当然なのだけど、最初は読んでいてこっちまでくそーなんだよせっかく幸せになるかと思ったのに、と思ってしまったのだった。

しかしあまり遅くならないうちにちゃんと理由を告げてくれたのは親切とも言える。後で大きな誤解だったー、なんていうことになる方がダメージは大きいかもしれない。

主人公少女は健気にも彼女にしかできないらしい使命を成し遂げようと努力を始める。と同時に彼女なりに感情を表現しようという努力も始めるのだった。使命はともかく、感情の表現の努力はかえって青年を惑わせてしまう。

女性向けラノベなので、無邪気な少女にどんどん参っていってしまう、暗い過去のある超イケメン青年がなかなか眩しい。普通だったらちょっと口説いたりしても良さそうな感じだけれど、そんなことをしたら歯止めが効かなくなってしまうのでただただ歯を食いしばるしかない。この作品のメインディッシュはこの青年の自分との戦いシーンだと思う。

2巻目では青年が敵に陥れられたり、敵の過去が明らかになったりして1巻とは違った意味でのアクションが展開される。そして主人公少女はものすごく辛い選択を迫られても当初の予定通り、頑張って使命を達成するのであった。直前の、青年とのやりとりのシーンも切なかったけれど、使命を達成した後の代償を目の当たりにするところはさらに切ない。周りがみんな大きなショックを受けて動揺しているところを、少女だけが冷静に、しかし懸命に自分を保とうとしていて、そのコントラストがさらに可哀想なのだ。

でもこれは悲劇のお話ではなかったらしい。

最後の最後に、もうこのままちょっとずつ進んでいくしかないよね、と読者が思い始めて頃、偶然により代償の悲劇から解放されるのである。読んでいてあれ、なかったことになっちゃったんじゃないの?と思ったがそうではなかったようだ。考えてみれば周りが覚えているんだから全くなかったことにできるわけがない。でもこういうのはやはり自分で疑問に思ったり納得したりしないとダメなものらしく、この場合も青年が自分でなんか変だな?と思い初めてやがてそうだったのか!となったのであった。

2冊の中に恋も愛も戦闘も過去話も謎解きもソツなく入っていて、ラストの部分はおばさんにはかなりこっぱずかしかったけれど(最初の方の歯を食いしばって堪える青年の方がグッときたので)、ああ良かったなあと思えるハッピーエンドだった。