きぬかつぎ

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小説の感想・地獄くらやみ花もなき 伍 雨の金魚、昏い隠れ鬼

美味しいものは最後に食べるタイプなので、時間が十分できるまで取っておいてようやく読んだ。

ちょっとネタバレありです。

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今年は帰省できないので以前観に行った紅葉の写真をアップ。

列車の大事件を経て新たな気持ちで5巻目に入ったこのシリーズ、相変わらず描写が絵画的で楽しめた。この作品の挿絵みたいな、淡いが存在感が妙にある色合いというか、綺麗な色もそうでない色でも、読んでいると目の前に鮮やかに浮かび上がってくるようだった。

もともと皓、紅、そして青と色が人物の名前に使われているくらいだから当然かもしれないが。

今回は何と言っても紅色だ。表紙もそうだけど中も紅色で始まる。

紅子さんが活躍する金魚の話だ。

この話はこの前マンガ版にも登場した、鵺の話に似たトーンの悲劇だった(話の中身は全然違うけど)。家族の間のしがらみである。一番よくあるが多分一番たちの悪いやつだ。

だがそれとは別に、舞台となる家の中の描写は艶かしく美しい。金魚がいたるところに装飾として登場して、こんな屋敷が実際にあったら見てみたいなあと思ってしまった。

金魚愛好家の家族の話で、でも金魚そのものとは直接は関係ない。紅子さんが活躍すると言うのでてっきり彼女が飼われている金魚たちから話を聞いて事件を解決するのかと思っていたが、そうではなかった。

あくまで冷静に下準備をして、得た事実から事件を推測する伝統的なスタイルだった。

そしてやっぱり鍵となったのは青児が視た怪物の姿である。彼の照魔鏡の能力を持つ目は相変わらず好調で、一見最近起きた事件のように見えたものが実は過去に葬られたはずの事件へとつなげた。

事件の背景も一見ただの相続争いに見えて実はそうではなくて、金魚の繁殖と実子たちの子育ての区別がつかなかった人間が起こしたことだとわかる。

そしてもう一つの事件。こちらはちょっとした偶然が重なって青児が一人で立ち向かうことになった話だ。初めて彼の実家のことも出てきた。

こちらの方も悲劇ではあったのだけど、今度は推理ではなくてスリラーな場面が楽しめる。ホラーじゃなくてスリラーである。ただし舞台は彼の家ではなくて彼が言ったことのある家だった。かなりおっちょこちょいな青児なので、いつドジを踏むか、いつうっかりと地獄に落ちちゃうかという点も含めて小一時間ドキドキした。

でも最後には何と彼が自分で何とかしたのである。これはもっと意外だった。話の冒頭にチラッと出てきた、皓との会話の内容が何だったのかがこれで判明する。

彼の実家の方は、ちょっと取って付けたみたいだけど全然ネガティブなオチではない事情が判明して一件落着になった。あまりいい扱いをされていないけれど、それでもこんなオチでよかった、と彼だけでなく読者の私も思ったのであった。

二つの話の間には幕間があって、最終章につながるのだが、ここには海外移住した兄弟が登場する。仲がいいんだか悪いんだかわからない二人だが、実際のところはかけがえのない存在なのだろう。

最終章では彼らのこれからと皓たちのこれからが交差して、またまた篁も登場して終わる。彼らの最後のセリフが笑える。そうか、これからはこういう展開か、ということがわかって次回のお楽しみになった。 

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